お化け屋敷を開催してから次々と起こる心霊現象
第玖話 真夜中のナースさん (目撃者:製造部実習生T氏)

2020年9月〇日深夜3:30
本社2階食堂及び工場
目撃者:製造部実習生T君

ダイトクコーポレーションは、毎年ベトナムからの技能実習生を受け入れている。彼らは3年間、一生懸命印刷技術を学び、祖国に帰っていく。そんな彼らは工場で貴重な戦力になってくれているし日本の事が大好きなので、こちらもできるだけ日本での生活を快適に過ごしてもらうようにと生活環境を整えている。例えば、住まいは一戸建ての寮を3棟用意し、実習生のプライベート空間にも配慮をしている。

外国で仕事をするということには不安もあるかもしれない。だからこそ、日本を好きになってほしいという社長以下社員の願いでもあり、食事に誘ったり、宿舎に差し入れをするなど、仕事以外の交流も盛んだ。

その中でも、日本人(特に女性社員)のやさしさに触れて、日本がもっと大好きになったという実習生のT君。

その日、T君は夜勤で仕事をしていた。午前3時に休憩に入り、食堂で食事をしていると、深夜にも関わらずピンク色のカーディガンを羽織ったナース姿の女性が現れた。T君は、こんな時間に女子社員の方が会社に来たのかな?と不思議に思いながらも、日本語で「こんばんは」と挨拶をすると、ピンク色のカーディガンを羽織ったナース姿の女性も笑顔で答えてくれた。そして、そのまま食堂を出て行ったという。「なにか忘れ物でも取りに来たのかな?」T君は深く考えることもなく、休憩の後も朝まで仕事を頑張った。

翌日も夜勤だったT君は、仕事に取り掛かる準備をしていた時に、ふと昨晩の出来事を思い出し「日本では、会社にナースさんがいて、社員の健康を守ってくれているんですね」と習ったばかりのカタコトの日本語を駆使して、一緒に仕事をしている上司に話をしたが、上司はT君に「ありがとう」とだけ伝え、ナースの話を終わらせた。

さすがに手厚いサポートをしている会社でも、夜中にナースがいるわけではないが、T君には言わないでおこう。そう、上司はT君の話をごまかしたのである。

今春、大人気のお化け屋敷にナースのマネキンが運び込まれていたことを、上司はT君に言っていないし、そのナースがピンク色のカーディガンを羽織っていたことももちろん伝えていない。

しかしこれも、大切な日本とベトナムとの交流である。

後日、搬入や設置をお手伝いしている担当者から聞いた話では、今春、美大生(マネキン製作者)が設置した「ピンク色のカーディガンを羽織ったナースのマネキン」の位置がちょくちょく違うところに移動しており、その度に不思議がりながら元の場所に戻している。との事だ。