お化け屋敷を開催してから次々と起こる心霊現象
第弐話 知らないおじさん(体験者 N課長)

201●年●月●日午後
本社工場 印刷現場+倉庫
体験者:N課長、Y君、K課長、息子さん

ダイトクコーポレーションの工場は24時間稼働している。工場のメンバーは、交代で夜勤勤務を行っている。

大型の印刷機械がハイスピードで稼働しているため、工場内には大きな機械音が響く。

印刷が終わると、次の印刷物を刷るために版替えの作業を行う。この時だけは機械音が小さくなる。

時刻が明け方を迎えようとしていた時、版替え作業を行う二人は同時に手を止めて顔を見合わせた。

機械の後ろから「おはよう」という渋めの男性の声が聞こえたからだ。

交代勤務の時間ではない。仕事をしているメンバーはそれぞれの機械を動かしている。

「聞こえた?」というN課長の言葉に、Y君もうなずく。しかし、機械の後ろには誰もいない。

気のせいかな?と思い、作業を続けた。

次の印刷は用紙が違うため、Y君は用紙の保管してある倉庫に向かった。いつもは手際のいいY君が戻ってこないので、N課長は不思議に思って倉庫に向かった。その時、「うわー、大丈夫です。誰か助けて!」というY君の叫び声が聞こえたので、N課長は急いで倉庫内のY君を探した。

すると、腰を抜かしたY君が「あそこに人がいて、手伝いましょうか?と声をかけてきたんです。」と言う。もちろん、倉庫のどこにもそんな人はいない。聞けば、さっきの声と同じだったと言う。

それ以来、工場内で男性の声を聞くことはなかった。

1年の仕事を終え、年末年始の休暇前に、配送担当のK課長は工場の戸締りを担当している。その日は他の社員は出勤していないため、ドライブがてら助手席に子どもを乗せて会社に来ていた。子どもを車に残して、工場内を見回っている最中に、「怖いよ、お父さん助けて」という声が聞こえた。

慌てて車に戻り、事情を聞くと、知らないおじさんが近づいてきて、「坊や、遊んであげようか」と言ったという。男の人はどこからか急に表れ、K課長の姿を見た途端に、消えてしまったらしい。

この件以来、ダイトクコーポレーションの工場内には、「出る」と噂が広がったが、その真相はわからない。

社長が趣味で作ったお化け屋敷の影響だというのが社員の共通意見である。